『ジュラシック・ワールド/炎の王国』IMAX 3D
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2018/7/28 TOHOシネマズ新宿 SCREEN10 F-19
本作を語る前には、
どうしても前作『ジュラシック・ワールド』(2015)について触れずばなるまい。
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(2015-12-18)
売り上げランキング: 12
2015年作『ワールド』は劇場では未見。
ちょうど1年前の2017/8/4の日テレ放送で、
オーウェン・グレイディ(左/クリス・プラット)とクレア・ディアリング(右/ブライス・ダラス・ハワード)を、
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山本耕史、仲間由紀恵が演じた吹替版を本編ノーカットで鑑賞。
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今年(2018/7/13)の放送(未見)は、
オリジナル劇場版どおりの玉木宏と木村佳乃に戻ったらしいが、
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これは公開中の『炎の王国』の吹替版と揃えるため。
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私はしかし、
MX4Dや4DXで『炎の王国』の鑑賞は避けて、
あえてIMAX 3Dを選んだのは、
オリジナル音声+日本語字幕版は歓迎だけど、
玉木宏と木村佳乃の吹替版は「クセがすごいので」カンベンだったからでもある。
実は私、2015年作『ジュラシック・ワールド』には相当に懐疑的だった。
『ジュラシック・パーク』(1993)以来、恐竜人気が続き、
恐竜研究も盛んになった。
恐竜型爬虫類は、
現世型爬虫類(ワニやトカゲ)の祖先ではなく、
鳥類の始祖だったとか、
鳥(トリ)に移行する前からとっくに、
恐竜には全身に毛が生えていたというのも、今では定説になっている。
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中国で発掘された、ティラノサウルスの始祖ユウティラヌスには、全身に毛が生えている。
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なので『ワールド』で『ジュラシック(・パーク)』シリーズ再開となっても、
以前のままの恐竜外観では最新学説と食い違い、
クローン再生した恐竜像としては説得力がなくなる。
なので『ワールド』予告で、
相変わらずの『ジュラパー』風恐竜像が示されたとき、
「ダメじゃん」と感じ、
「これじゃあなあ…」と、興行も危ぶんだ。
ところがアメリカでは空前の大ヒット。
ようやくテレビで観て、
なるほど面白く、
ヒットも納得が行ったが、
自分が気に入ったところがヒット要因だとは思っていない。
私が『ワールド2015』で気に入ったのは、
- 冒頭で、まずは恐竜の足がドアップで映り、カメラが引くと恐竜ではなくトリ(カラス?)の足だと判明する。これはつまり、作り手は最新の恐竜学説、①トリが子孫、②恐竜にも羽毛や体毛があった——はわかってますよ、と表明している。
- 新種の遺伝子操作ハイブリッド恐竜「インドミナス・レックス」は、終盤で恐竜語で他種のラプトルを手なずける。ラプトルのDNAを保有しているから会話ができたとされるが、言語は後天的な獲得能力なため、個体単独で隔離飼育されていたインドミナスにはムリだろ……と思っていたが、「2頭で飼育されていたが共食いで1頭が残った」=同種間で会話していたという前フリがしっかり利いている。
インドミナス・レックス対ラプトルの図
結局、多毛恐竜や羽毛恐竜を出さなかったのは、
「最後にアレが出て来るのに、その姿を変えるわけにはいかなかった」からだが、
だからこその、
冒頭の恐竜の足の爪→鳥の足爪
で「ちゃんとわかってますよ。だけど…」と示してるのであろう。
というわけで、『ワールド2015』への、
「どうせくだらないんだろ」と言う偏見はすっかり消えて、
「よく考えてるじゃん」と感心しきりで見たので、
その続編の『炎の王国』にも大いに期待した。
しかして鑑賞した感想は?
これはアカン。
ただし、私がダメだと感じる部分に、
気がついている人は少ないと言おうか、
おそらくほとんど気づけなそうなので、
なるべくそのことだけを書いておこう。
話は淡々と進み、
アクビは一度しか出なかったものの、
“やっちゃいかん”ことが平気で繰り返され、
どうやら、なんでやっちゃいかんのか、
脚本家は気づいてなさそうなところがビックリ。
いかにも現代っ子の書いた、究極の矛盾脚本である。
最近の若者は新聞も読まずテレビも見ず、
CDやDVD等のパッケージメディアも買わずに、すべてをネット配信で代用してるが、
いったんネットという手段が確立した後に生まれた人に、
それより前のあたりまえや常識を説いたところで理解できないらしい。
ネット以前に生まれた人でも、
何かの調べものをするとき、
ネット検索から始めて、それで済ませる人ばかりで、
わざわざ図書館に出かける人なんてほとんどおらず、
その理由は、あてが外れるリスクを冒す理由が思い当たらないのと、
同じようなことである。
ワンフェスやスーフェスなどで、
古物オモチャの
掘り出し物を見つけるなんてのも、
ネットオークション以降はあまりにも確率が悪すぎて、
すっかり流行(はや)らなくなってしまった。
フリーマーケット気分で、この手のイベントに出かける人なんて、
もういないんだろう。
同様に、CGでどんな映像も作れるようになった弊害で、
ストーリー構築/脚本執筆の基本原則さえ崩れてしまったらしい。
『炎の王国』の舞台、イスラ・ヌブラル島は大規模な火山噴火が予測され、現地に野放しの恐竜たちは絶滅の危機。
そこで恐竜保護に熱意のあるクレアとオーウェンが情にほだされ、
捕獲と島からの脱出作戦に参加。
前作のような、登場人物の背景もはしょられて、
ここまではテンポよく進み、
展開も早い。
獰猛な恐竜の捕獲には、
強力な鎮静剤が使われ、
その威力は、打たれれば(撃たれれば)呼吸さえ止まりかねない、
筋肉弛緩剤である。
…なはずなんだが、
見たところ、大半の恐竜たちには鎮静剤はあまり効き目がなく、
とばっちりで撃たれたオーウェンでさえが、
呼吸停止どころか、けっこう難なく切り抜けている。
しかしこの、彼の危機脱出プロセスが、とにかくひどい。
当初は身動きできずにぐったりと横たわっているんだが、
噴火した溶岩が自分の身に迫り来るため、
必死で気力を振り絞り、
どうにか溶岩をかわす。
????
強力な鎮静剤だか筋肉弛緩剤って、
危機が迫ってきただけで、効き目が減るの?
気持ちや気力や気合い、
つまり精神論で切り抜けられ、
薬の効果が抑制されたりするもんなの?
この後の展開もすっかりグダグダ。
怒濤の溶岩噴出から逃れるため、
オーウェンはヘロヘロながらも全力疾走。
なぜ走れる?
↑『ジュラシック・ワールド』(2015)
↓『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018)
海に落ちると、
オーウェンも果敢にダイブし、
全力で救助活動にあたる。
海面には溶岩や逃げた恐竜がボコスカ落下して大混乱。
水の濁りや瓦礫の混入も相当だろうに、
オーウェンはたやすく海中のジャイロスフィアを見つけ、やすやすとたどりつく。
なぜ泳げる?
懸命に救助活動を続けるも、
オーウェンはさすがに息が続かないので、
いったん水面に上がり、
息継ぎしてからまた海中に潜り、
一度ならず二度までもジャイロスフィアを見つけ、またしても難なくたどりつく!
なぜ潜れる?
鎮静剤を打たれていない人間でもおよそ無理そうな、
超アスリート級の獅子奮迅(ししふんじん)の大活躍。
シラけましたよ。
作り手は、すべてCG処理で映像化を前提に、
こんな杜撰(ずさん)な脚本を書き殴ったみたいだが、信じられない。
なぜなら、CGなら、動物(恐竜)も自然現象も、
- 好きなタイミングで
- 好きな画面位置に、
- 好きな状態で映像化できるが、
現実社会では動物の行動や自然現象は人間には操れず、
偶然に任せるしかないからだ。
『炎の王国』どおりの展開が実際に起こる可能性は、
奇跡の偶然、「たまたま」の積み重ねだから、
およそ実際にはありえない、超天文学的に低い確率。
つまり実際にそうなっているとしか思えないリアルな映像は揃えられても、
「そんなに話し手に都合よく、自然現象が起き続けるわけねえだろ」
と勘づいてしまった観客には、
まじめに映画を見続ける気がごっそりと削(そ)がれてしまい、
もはや挽回は不可能。
なのに映画脚本家って、
そんな基本的であたりまえなことさえ気づけなくなっているのか?
『ワールド2015』の脚本は、
原案のリック・ジャッファとアマンダ・シルヴァーに、
ところが『炎の王国2018』の脚本は、
『ワールド』途中参加組のコノリーとトレヴォロウだけになっているので、
ダメ脚本の犯人は明らか。
トレヴォロウもコノリーも1976年生まれ。
映画デビューも共に2012年からなので、
こういうCG万能のお手軽脚本を書いてしまうんだろう。
この後も、
- イアン・マルコム(ジェフ・ゴールドブラム)の含蓄のある再三の警告にもかかわらず、話の方向は教訓を生かさない真逆に進む。
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- 恐竜保護グループDPGの職員で、若い黒人男性コンピュータ技師のフランクリン・ウェブ(ジャスティス・スミス)は、いったん敵に巻き込まれて連れ去られたのに、いつのまにか仲間に戻っている。
- ロックウッド財団の総帥、ベンジャミン・ロックウッド(ジェームズ・クロムウェル)の“孫娘”メイジー・ロックウッド(イザベラ・サーモン)は実は孫娘ではないが、ネタバレ写真の年齢のドンピシャぶりにも工夫がないし、恐竜とのチェイスの状況設定も不自然ですんなりつながらない。
- メイジーが偶然まぎれこんだ地下施設では、たまたまオーウェンがブルーと意思疎通を果たす動画を目にするが、これは後で出くわすオーウェンが善人で信用できるとあらかじめ示しておくための「都合のよすぎる絶妙な前フリ」
——等々、あげつらったらキリがないが、
そもそもそこに至る前段が破綻してるんだから、
後の方だけケチをつけても仕方ない。
とにかくこんなザル脚本でまかり通ってしまうと、
雇われ新監督のフアン・アントニオ・バヨナは、
大任抜擢に感謝こそすれ、
脚本に異を唱えるなんてもってのほかで、
無批判にひたすら脚本どおりに撮るしかなかったんだろうと推察される。
なにしろこんな仕事っぷりだから、
トレヴォロウが監督予定だった『スター・ウォーズ エピソード9』(ボツッたが)も、
果たしてまともだったのか、大いに疑わしいところ。
『ジュラシック・ワールド』第3弾も、この調子では先が思いやられる。
IMAX 3Dの仕上がりのほどは、
飛び出し効果がほとんどなく、
奥行き効果ばかりで、
途中で3D版なのを忘れてしまうくらいのショボさ。
大音響はたしかに迫力だが、
緩急もなくガンガン鳴らしっぱなしなので、
ただやかましいだけで、ゲンナリ。
ただし、隣の席の女子学生グループは、
IMAXの大画面大音響にたっぷり打ちのめされてたようなので、
年齢や映画経験値で印象や感想が異なるらしい。
4DX版を鑑賞した、
「スリルもパワーアップ。涙も出て来て、ハンカチ取りだして泣きました。ほんとオススメ」
(2018/7/30)とのことで、
さすがは『グレイテスト・ショーマン』で一番よかったのは、
(2018/5/21)
動物好きの菅井さんならではのユニークな感想です(笑)。
いっぽう私が個人的に『ジュラシック・ワールド/炎の王国』で評価すべき点があるとするなら、
前作から続投の音楽、
『ジュラシック・パーク』のジョン・ウィリアムズの曲にほとんど頼らずに、
ほぼ全編を自曲で乗り切った。
Original Soundtrack
Backlot Music (2015-06-09)
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彼だけが『炎の王国』唯一の収穫だったと申せましょう。
マイケル・ジアッキーノ
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