2012年に俳優業の引退を突然宣言した、
アイルランドの俳優、
ピーター・オトゥールが、
12/14(現地日時)に、長期療養の末に亡くなった。
オトゥールと言えば、
必ず『アラビアのロレンス』だが、
では、なぜあの作品(だけ)での演技が評価されるのか。
オトゥール氏の出演作品で、
私が『ロレンス』の他に観たのは、
『天地創造』(1966)
『スーパーガール』(1984)
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↑この場面、全然覚えてません。
『トロイ』2004
『名犬ラッシー』2005
『レミーのおいしいレストラン』2007 ・声の出演
----と、数えるほど。
1960年のデビューで、わずか2年後に『ロレンス』で主演。
まだまだ機会があるだろうと、その年のアカデミー主演男優賞は、
『アラバマ物語』のグレゴリー・ペックに。
ところがその後、オトゥールの生涯に、ロレンスほどの晴れ舞台は訪れなかった。
『チップス先生さようなら』(1969/ゴールデングローブ賞 主演男優賞 ・ミュージカル・コメディ部門受賞)あたりで、もらっておくべきだった。
日本では、『ハウステンボス』のCMに出演していた。(1992年)
『ロレンス』が作品的に名作、傑作なのは誰でも知ってるが、
(ただし作品の真価が、どれだけの人に理解されているかはアヤシイ)
作品の七光りではなく、
オトゥール氏の演技が評価されているのは、なぜか。
それは、
*前半と後半の演技分け
意気揚々、自信満々で、
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見事に不可能を可能にする前半。
反対に、やることなすこと裏目続きで、
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どんどん壊れていく後半。
そして最後は、サイクス・ピコ条約(協定)という、
自分の意志とはまるで無縁な、
政治的解決で引き揚げる羽目になるという、
あっけなさ過ぎる幕切れ。
戦争の渦中に身を置きながら、
実は戦争に翻弄されるだけだった
という痛烈な皮肉。
と言う図式を、演技で表現できた俳優は、
このオトゥールと、
『パットン大戦車軍団』のジョージ・C・スコットくらいのものだろう。
*理屈ではない魅力と色気
列車襲撃時に、部下達をけしかける
「カモン、メン!」
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金でかき集めた集団を率い、陥落を目指す地の名を叫ぶ、
「ダマスカス!」
どちらも声が裏返り気味で、
あの時にイク声を連想させ、
観客をドキリとさせる。
『ロレンス』は意図的に、倒錯した性的嗜好(指向)を暗喩した作品になっている。
主要人物に、女性は皆無。
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男達だけの世界で彼らを突き動かすものは、友情だけではありえず、(同性)愛が根底にある。
生涯独身を通したT・E・ロレンスは、
軍施設で同室の同僚に、自分をムチで打って欲しいと願い出たそうだが、
その嗜好にいたる過程も、劇中で描かれている。
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実在のロレンスは、英国社会ではかなり低身長の165センチだった。
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188センチのオトゥールは、ロレンス像を徹底的に理想化、美化し、
本作以降、アラビアのロレンスといえば、誰もが実在のT・E・ロレンス氏ではなく、
ピーター・オトゥールの姿を思い浮かべるようになった。
オトゥール氏に、一世一代の当たり役がロレンスしかなかったのは残念
…かもしれないが、
大半の俳優が、それを一つも持たないうちに消えて行くのだから、
これはこれで幸運だったといえるだろう。
『アラビアのロレンス』という作品もそうだが、ピーター・オトゥールのような俳優も、まさにその時代が生み出したものだけに、今後は二度と現れることはないだろう。
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現在でもこの作品を鑑賞可能なことに感謝したい。
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そこでのロレンスは永遠だから。