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- 4人の証人/誰も知らないスター・ウォーズ
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- 【定例まとめ】誰も知らないスター・ウォーズ⑨
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ウォーカー図版収集作業のクライマックスは、帝国軍歩行兵器のデザインのオリジネーター(原案考案者)、ガーシアン・ストライダーの作者であるリー・M・サイラー氏と直接コンタクトが取れて、ご本人から直々に秘蔵画像を提供していただけたことだった。
——と書いた部分にあたる。
『帝国の逆襲』におけるデザイン盗用
マニア受けするつくりの『帝国』の中でも、ひときわ異彩を放っていたのは、当時はチキンウォーカーとあだ名されていた帝国軍の二脚型歩行メカ、スカウトウォーカーが、雪原での戦いにたった2カット、しかも遠景で横向きにしか登場しないことだった。
しかしこのメカが隠し味のように目立たない形でしか登場しなかったのには、それなりの経緯があった。
本作に主役として登場する、帝国軍の四脚型陸上兵器AT-ATは、
当初はありふれたキャタピラ型の戦車タイプが予定されていたが、
↑5連タイヤ式のデザイン案は、
87年以降にゲーム会社WEG(ウエストエンド・ゲームズ)に、
「ジャガーノート」と命名され、
『エピソード3 シスの復讐』(2005)で、
クローン・ターボ・タンクとして、25年後にようやく映画に登場。
1作目に既出のサンドクローラーとの違いを出すためもあり、
大地を踏みしめる巨獣型に変更された。
四つ足で歩行する鉄の巨獣というコンセプトは、1960年代にシド・ミードがUSスティール誌に描いたものに代表されるように、近未来SFアートのテーマとしては定番だった。
ジョー・ジョンストンが率いる『帝国』デザインチームは、こうした歩行兵器の決定版を劇中に現出させるべく、鋼鉄の巨獣に関する多くの資料をかき集め、その中にはリー・M・サイラーというSF/メカニックイラストレーターが1976年に発表した、ガーシアン・ストライダーと総称される何点ものイラストが含まれていた。
サイラーは1976年までの10年ほどに、独自のガーシアン・ストライダーという物語を考案し、そこに登場するメカのイラストを描いては、1976年から1981年にかけて各地のSFコンベンション会場で販売していた。
ガーシアン・ストライダー(歩幅を大きく取って闊歩するもの)とは、サイラーが考案した二足歩行するマシーンの総称でもあり、サイズは大中小の3種類に大別される。
個々のストライダーは細部が微妙に異なり、丸みを帯びた動物型の頭部にサングラスをかけたようなユーモラスさが、タツノコプロの「タイムボカン」シリーズのギャグメカを想起させる一方で、
口元から突き出した砲口が、このメカが厳然たる攻撃兵器であることを示してもいる。
全てのストライダーに共通しているのは二脚型であることと、膝の部分が人間とは反対向きの鳥脚状の逆間接になっていることで、大型ストライダーのボディ形状の縦横比率や頭部との接続構造、さらにはフットパッドの形状などは、ほぼそのまま四脚型のAT-ATに転用されている。
だがこの四脚型ウォーカーへの二脚型ストライダーからの転用は、もう一つの転用、二脚型から二脚型に比べれば、まだおとなしい方だと言える。
スカウトウォーカーのためにジョンストンが描いたデザイン決定稿と、中型のガーシアン・ストライダーのイラストでは、脚の基部からすねまでの下半身が、フットパッドをのぞいて寸分違わず完全に同じなのだ。
このイラストは、スカウトウォーカーとの酷似性を指摘するために、アメリカのSF映画雑誌「スターログ」→「シネファンタスティーク」(※後述)に『ジェダイ』公開の83年頃に掲載され、
日本でも「パノラマシティ」という
短命に終わった映画雑誌の85年1月号で小さく紹介されていたから、
SW通の間では知る人ぞ知る存在だった。
(中)1986年に結審した法廷闘争のために、リー・サイラーが 1976年までに描きためたガーシアン・ ストライダーを1枚のイラストにまとめ上げたもの。ストライダーと同じ二脚型のスカウトウォーカー (右)だけでなく、四脚型のAT-AT(左)にまで多大な影響を与えていることが、一目瞭然だ。
学研刊「パノラマシティ」85年1月号 (実質発行は84年中)より転載。元々は米スターログ→シネファンタスティーク誌に掲載されたもの(※後述)。論調はなぜかLFL寄りだ/このイラスト1枚を見ただけなら、盗作は二脚型のスカウト(チキン)ウォーカーだけだと思われたが......
AT-ATに行き着くまでには何枚ものデザインが描かれたのに、
ボディは、『宇宙戦争』の表紙イラストが発想の原点だった。
恐らくはバッタを模したと思われる、
バージル・バーネット(Virgil Burnett)画の、1962年版『宇宙戦争』の表紙
↑これを指摘したのは、私以上にSWのパクリネタ追及に執念を燃やす、デンマーク出身で現ニューヨーク在住の、マイクル・ハイルマン(Michael Heilemann)
より斬新な脚形状を持つ二脚型ウォーカーについては、わずか3枚しかデザイン画が存在しないことも、スカウトウォーカーが単なるガーシアン・ストライダーのコピーであることを雄弁に物語っている。
3枚のデザインのうち、中型ストライダーのイラストと似ていないのはたった1枚だけで、これとて箱形の監視所の下に四脚型ウォーカーの脚が2本はえている構造だから、ストライダー全般の影響が皆無というわけではない。
残りの2枚は、ストライダーの頭部と足底だけをSW風のものに置き換えた決定稿と、頭部形状をストライダーの曲線構成から、鋭角的なSW風にアレンジし、ストライダーのイラストからポーズを変えただけの準備稿という内訳である。
ジョンストンとしては、あくまでも四脚型AT-ATのスタイルを確立するのが先決課題で、二脚型ウォーカーに関してはほんの遊びのつもりで、だからこそガーシアン・ストライダーのデザインをそのまま平気でコピーして済ませていたわけだから、これを映画に登場させる気はなかった。
ところがこのデザインの秀逸さはILMのモデルメーカーたちを刺激し、有志が完成させた可動部のないディスプレイモデルが工房に飾られているのを、打ち合わせに訪れたルーカスが目にして大変に気に入ってしまい、ぜひ劇中に登場させようと言い出した。
↓ここでの「私」とは、ジョー・ジョンストンのこと。「ジョージ」はルーカス。
↓「アーマチャー」(アーマチュア)とは、関節が可動する骨組のこと。
↓ほぼノープランで、設定も固まらずに戦線(劇中)に投入されている。
「ジョー」はジョンストン、「ジョン」はバーグ、「ジョージ」はルーカス。ややこしい…
まさかこのデザインは盗作なので使えませんとも打ち明けられず、急遽ストップモーション用の可動モデ ルがつくられて、デザインとの関連が判明しにくい横向きの遠景で、わずか2カットの登場となったというのが真相である。
(スカウトウォーカーが奥から手前に迫ってくるカットも試されたが、ストップモーション作業がうまくいかず、本編には採用されなかった)
しかしマニアな観客たちはこのメカにがぜん注目し、ケナー社からは玩具まで発売され、
さらに次回作『ジ ェダイ』では、AT-ATに代わってエンドアの森林戦で主役級の扱いを受けて、AT-STという正式名までつけられた。
さすがにこれを見過ごせなくなった、ガーシアン・ストライダーの考案者であるリー・M・サイラーは、 『帝国の逆襲』における、ウォーカー(歩行兵器)全般に関するデザイン盗用で、LFL、ILM、20世紀フォックス、ジョージ・ルーカス、ジョー・ジョンストンを相手取って訴訟を起こし、この裁判は1986年に結審した。
裁判所はサイラーに有利な証拠をことごとく却下する一方で、ルーカス側の言い分だけを聞き入れるばかりで、肝心のストライダーのデザインそのものが、四脚型、二脚型を問わず、帝国軍のウォーカーに酷似していた件に関しては、全く裁判の争点にされずじまいだった。サイラーが敗訴した理由の中には、1976年以前に描かれたはずのガーシアン・ストライダーの著作権登録が、『帝国の逆襲』の1年後の1981年だという些細なことまで含まれていた。しかしこれは、映画『帝国の逆襲』を1980年に目にするまで、デザイン盗用など予想だにしていなかったサイラーには、あまりに酷な裁定だったと思われる。さらに裁判に提出したストライダーのデザイン画が、シネファンタスティーク(とその転載のパノラマシティ)に掲載されたそのものずばりでなく、数種のデザインを1枚にまとめ直していたのも不利だった。
今回、本書のためにサイラー氏本人から画像提供していただいた中にも該当の雑誌掲載画像はなかったので、どうやら原画を紛失してしまっているようだ。とにかくサイラーは当然控訴を望んだが、かさみ続ける訴訟費用がまかなえずに断念せざるをえなかった。リー・サイラーは現在オレゴン在住で、ディズニーの『海底2万マイル』(1954)に登場したノーチラス号の 1/72スケール、全長81センチ強のモデルの製作と販売を行っている。(2008年当時)
リー・サイラーの描く、大型ストライダーと中型ストライダーのイラスト(部分)。『帝国の逆襲』 版スカウトウォーカー(右上)と、頭部と脚部のバランスや、脚部の各間接までの長さの比率が一致している
サイラーのデザインにも他作品からの影響が見て取れる。右側の中型ストライダーの頭部構造は、『猿の惑星』(1968)のテイラーの宇宙船イカルス号と共通している/中型ストライダーのフットパッド形状に注目すると、左側は刃物状の先端が、右側はダチョウの足形を模したものが、どちらも大地にめり込んでいる。リー・サイラーは10年の歳月をかけて、マシーンの大きさと重さに最適で、走行にも適した脚部と足底形状のデザインを突き詰める作業を地道にくり返し、さしずめ歩行マシーンの一大カタログとでも呼ぶべきものを築き上げた。それが『帝国の逆襲』を準備中のILMにごっそり盗用され、彼らは選り取り見取りのサイラーのデザイン集から、SWに相応しいものをつまみ食いし、少しだけアレンジすれば事足りてしまったことになる/リー・サイラーの当時の版元だったクリフリッジ・パブリッシングからは、サイラーとミッチ・イクタの共著で、1978年に"Building, Being,Creating Creatures, and Doing Dinosaurs"というストップモーション研究本も出版されている。
ここまでが本文で、
ここからブログ記事で補足となるが、
同様の主旨は3回の記事でまとめ、
- LFL訴訟の行方(4)ウォーカー裁判〈前編〉(2009年08月11日)
- LFL訴訟の行方(5)ウォーカー裁判〈中編〉(2009年08月12日)
- LFL訴訟の行方(6)ウォーカー裁判〈後編〉(2009年08月12日)
1978年11月16日の日付あり。

↑足と脚、関節の比率も、卑屈なまでにミードのメカに忠実な側面デザイン図。
ここからは、この記事(裁判再検証/スカウト・ウォーカーにまつわるエトセトラ〈その5〉)からの抜粋転載。
この判例は、
ネットに記録が公表されているが、
結局はリー・サイラ-氏の敗訴。
(1984年10月16日に結審)
とにかく自分の描いたデザインを無断で丸パクリされた、
リー・サイラ-氏。
おそらく、映画『帝国の逆襲』(1980)をみただけでは気がつかず、
↓『帝国』スケッチブック(THE EMPIRE STRIKES BACK SKETCHBOOK)
という書名のデザイン集の
↑中身を見て、自分のデザインまんまのコピペぶりに、
ガクゼンとしたに違いない。
(※当時コピペという俗語はなかったが)
そこでサイラー氏は、『帝国』翌年の1981年に、
ルーカスフィルムに、
「盗作の損害賠償について、話し合いの場を設けて欲しい」と手紙を送るも、
先方の顧問弁護士からは、
「話し合うことは何もない」とつれない返答が、
何ヶ月も経って、ようやく届いた。
やむをえずサイラー氏は訴訟の準備を進め、
盗作の証拠として挙げたのは、
サイラーのデザイン画を買ってくれた顧客リストに、
デニス・ミューレンの名前があることだった。
サイラーは、
パクリが明らかなのは、わずか2カット出演の二脚型だけなので、
それじゃ訴えるのに弱かろうと、
「四脚型だって、オレのパクリだ」説に基づく、
新たなイラストを、この1981年に描き起こす。
設定は以下のとおり。
ガーシアン・ストライダー 中型攻撃/兵員輸送ユニット
80トン 最高時速40キロ
「地球の戦車とは異なり、ガーシアン・ストライダーは二本足で“歩行”する。
銀河各地の様々な地形に対応するには、これが最適な方式だから。
ガーシアンという(架空の異星)種族から見れば、
人類など虫けらに等しい、取るに足らない存在なのだ」
——リー・サイラー 1981年
『ジェダイの復讐』(当時邦題)の1年後の1984年、
サイラーは、
ジョージ・ルーカスと
↓ルーカスフィルム、
↑20世紀フォックス等を相手取り、
数百万ドル規模の訴訟を起こした。
訴えの内容は、
『帝国』と『ジェダイ』に登場する
ウォーカー(歩行兵器)は、
AT-AT(四脚型)かAT-ST(二脚型)かを問わず、
どのみちサイラーのデザインの盗用である。
損害を被った立場から、
ルーカスフィルムはウォーカーのデザイン使用を中止し、
今後公開する『帝国』『ジェダイ』のフィルムから、
ウォーカーの映像を全削除することを要求する。
——という、デジタル技術のない当時としては、
「さすがにそれはどうなのよ」なものだった。
原告(訴える方)のサイラーの肩書きは、
ハリウッドのセットデザイナーとなっていたが、
この経歴を示す記録はない。
損害を請求するには、
デザインを盗作されなければ、本来は自分でこう使い、
そこからしかるべき利益をあげていたはずという裏付けを示さねばならず、
サイラーの肩書き詐称は、そのためのハッタリだろう。
ただしサイラーは1979年に、
恐竜のストップモーション技法についての本
“Building Beings, Creating Creatures and Doing Dinosaurs”
『生物の骨格作り、クリーチャーの造形、恐竜のアニメーション技法集』
を、ミッチ・イクタ(Mitch Ikuta)と共著で、
クリフリッジ・パブリッシング(Cliffridge publishing)
という版元から出している。
1981年には、
サイラーがストップモーション(コマ撮り撮影)アニメ用にデザインした、
ウォーカー(ストライダー)のブループリントが、
"The Garthian Culture: An Alien Profile"
「ガーシアン文化~あるエイリアン種の片鱗(へんりん)~」
と言う本にまとめられた。
サイラー氏は裁判で、
自分のデザインは1976年の6月に描いたもので、
その後のSF/コミックコンベンションで販売したと主張。
裁判は1986年に結審。
原告は、
●リー・M・サイラー(LEE M. SEILER)
被告は、
●ルーカスフィルム
●ILM
●20世紀フォックス
●ジョージ・ルーカス
●ジョー・ジョンストン
サイラーは、ガーシアン・ストライダーと称するSFクリーチャー(機械生命体)の、
デザインの意匠登録を取得したのは1981年だが、
発表したのは1976年と1977年だと主張。
しかし登録した1981年に提出したのは、
オリジナルではなく、『帝国の逆襲』(1980)の公開後に、
描き直したものだった。
7日にわたる意見陳述の中で、
サイラーは『帝国の逆襲』公開前に、
自分のデザイン画が発表され、
販売されたことを実証できず、
本人は、それができない理由を、
原画は探しても見つからず、
うかつにも破棄してしまったかも知れないと主張。
また、1981年より前に、ブループリントが販売されたという証拠も示せなかった。
↓法廷でサイラーが提出したイラストはすべて、裁判のために改めて描き直したものだった。
↑この2点は、2009年にサイラー氏本人に直接連絡を取り、画像提供してもらったものだから、このブログ以外では、発表されてないはず。
結局これ以上の証拠がでなかったため、サイラー氏は敗訴となった。
負けた理由は、
二脚型のパクリは明らかでも、
たった2カット出演メカでは、
映画の権利を要求するには弱い
ので、
「四脚型もオレのパクリ」だと主張することにし、
それにはすでに描いてあった、
↓このイラスト(左・これまた二脚型で鳥脚逆関節)だけでは、イマイチ説得力がないと考えてしまい、
証拠の画稿2点を「なくした」ことにして、
↑新たにAT-ATとAT-STに思い切り寄せた絵を、
わざわざ描き直して提出したことで、
かえって法廷での心証を悪くしてしまったのも一因らしい。
サイラー氏に画像提供いただく際に、
●控訴したかったが、追加の訴訟費用がまかなえず、断念した。
●1976年に描いた原画は紛失した
——とのことなので、
上掲の2点を「これですよね」と送ってみたが、
それに対する返答はなし。
人間、欲をかいて、あれこれ盛ってしまうと、
本来得るべきものまで失ってしまう。
サイラー氏は、現在では
『海底二万哩』(1954)に使用されたノーチラス号のモデル研究の第一人者として、
立派なサイト(※2021年現在は消滅)を持ち、
そこでの最新更新は2015年の3月だから、
今も健在である。
今回は、まとまらず重複箇所も多いですが、更新時間ギリギリまで粘ったので、
とりあえず以上で〜す。
一応、以下の後追い記事もご覧ください。